2009年9月20日日曜日

辻井伸行さん クライバーンコンクール優勝 について



ピアニスチンが最近嬉しかったことの一つに、全盲ピアニストの
辻井伸行さんが、アメリカのヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール
に優勝したことがある。

辻井伸行さんは、幼いこからよくTVで紹介されていたので、
前から知っていた人も多いはず。
そして、このあたりのうわさでは、たまプラーザにある辻井産婦人科
の息子さんだとか。実際に新百合ヶ丘からたまプラーザにいく途中に
車で通るときに何度か見たことがある。

これまで、全盲ピアニストといえば、梯剛之(かけはしたけし)さんが
有名だった。彼も、全盲者用のピアノコンクールではなく、一般の人と
たたかって、ロン・ティボー国際ピアノコンクールで2位を取っている。

ここで冷静な分析をしてみたい。
辻井さんと梯さんは、本質的には全然違うタイプのピアニストである。
一般的に言って、全盲のピアニストは、やはり耳が通常よりも発達して
いるからか、音が非常にきれいで、音楽性で非常に感動させられること
が多い。裏をかえしていうと、やはりそのハンディから、テクニック的
には少し劣ると言わざるをえないことが多いのである。しかしその
劣った部分をすばらしい音楽性でカバーしているのである。

梯さんのリサイタルに何度かでかけたことがある。
アンコールで弾いた曲であったか、フォーレのノクターンの演奏があった。
えもいわれぬようなその透き通った音に、私を含め聴衆は深い感動に
つつまれた。

一方辻井さんは、これまでの全盲ピアニストとは違って、テクニックが
ある。
目が見えてもその跳躍の多さから、はずさずに演奏するのが難しい
リストのラ・カンパネラを、見事に弾いてのけた。
ショパンのコンチェルトも素晴らしかったし、ベートーベンのハンマー
クラヴィーアも圧巻。
おそらく彼の中には、ピアノの88鍵すべての位置が正確な距離感をもって
完璧に体が記憶しているのであろう。

ただしテクニック的に弾けるピアニストはゴマンといるわけなので、今後の
辻井さんには、音の質や音楽性という意味でも聴衆を感動させられる
ピアニストになって頂きたい。なぜならばそうでないと、一過性の話題として
忘れ去られてしまう可能性があるからである。

いろいろと書いたが、同じ日本人として彼は日本の誇りだし、
その突出した才能と、これまでの努力には本当に脱帽である。

またここでぜひ言及しておきたいことがある。
日本では全くと言っていいほど取り上げられないが、実はクライバーンコンクールでは優勝者は2人いた。
つまり、1位が2人で、そのうちの一人が辻井伸行さん。ではもう一人は?
Haochen Zhangという、コンクール最年少の中国人青年である。

私はコンクールの様子を、ウェブにアップされていた動画で見ていた。
このHaochen Zhangこそ、大本命の一位の人物。
はっきりいって、他の参加者を寄せ付けないほどの音楽性と、テクニックがある。

ベートーベンのソナタOp110で見せた深く美しい音楽は、とても19歳が
弾いているようには思えない。
ショパンの前奏曲、プロコフィエフの協奏曲2番、ストラビンスキーのペトルーシュカ、どれをとっても素晴らしいの一言である。
日本ではほとんど知られていないが、今後楽しみなピアニストである。